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研究ピックアップ

KSCではどんな研究が進められているのか?
関学が誇る最先端の研究の一部を紹介します。

生命環境学部 生物科学科

価値ニューロンから意思決定の仕組みを解明する。

三浦 佳二 准教授

※この記事は2020年2月に神戸新聞に掲載されたものです。

ヒトの「やる気」とは実に繊細で不思議です。

例えば、私が嫌々書き始めたこの原稿も、全体像が決まればむしろ書きたくなりました。また「明日からやる気を出す」と、毎日言い続けるだけの人がいるように、自分の脳の働きであるにも関わらず、やる気はうまくコントロールできないものです。

「やる気」を、ニューロン(神経細胞)に基づいて科学的に解明するのは難しそうに見えます。ただ、2005年に鮫島和行・玉川大学授らが「価値ニューロン」を発見して以来、爆発的に脳科学が進展し、光が見えてきました。

動物はどこに餌を探しに行くかを決める際、複数の選択肢の中から最適な行動を選ぷことで生存競争に生き残ります。そのために脳は「ある行動をとった際に、未来に期待される報酬の量を予測するニューロン」を持つ、と言うのです。

この「価値ニューロン」の活動に基づけば、脳はそれぞれの選択肢がもたらす将来の報酬量(餌の量)を比較し、最適な行動を選択できるはずです。そもそも脳は、未来を予想するためについていると言えるのかもしれません。

価値判断ややる気など、意思決定の仕組みも、この「価値ニューロン」という考え方で多くを説明できそうです。

「価値ニューロン」は、脳の報酬系と呼ばれる部位の中で見つかりました。報酬系は薬物中毒と関連が強いことが知られています。古くは、ラットがレバーを押した直後に快楽中枢を電気刺激すると、いつまでもレバーを押し続けることが実験で分かっていました。

電気刺激でラットが快楽を感じ、気持ち良いのかどうかは聞くすべもありませんが、レバーを押す行動を繰り返すことは事実です。ここで現代的な「価値ニューロン」を通した見方をするならば、電気刺激が「価値ニューロン」を誤作動させ、価値が高いと思い込んでしまったとも解釈できます。

さらには、ベルを聞くだけで餌がもらえると思ってよだれを垂らすことで有名な「パブロフの犬」は、ベルが鳴った時点で価値を計算していると解釈できます。

より最近、われわれは「価値ニューロン」と同じ脳の部位に、「やる気ニューロン」を発見しました。価値ニューロンは、ある選択肢から期待される報酬の量に比例して活動します。一方、やる気ニューロンは二つの選択肢のどちらも価値が高いときに活動し、行動が素早くなることと関連していました。

こうした研究が深まり「脳とは価値を計算する機械仕掛けで、ただのパブロフの犬程度でしかない」と科学的に解明されていくなら、神聖不可侵だと考えられてきた脳の神秘は失われていくでしょう。そうなると自由意志や自己責任、創造性などがそもそも存在するのかなど、人類は多くの哲学的な「転回」に直面するのかもしれません。

三浦 佳二 准教授
MIURA Keiji
三浦 佳二 准教授
機械学習やシミュレーションなど計算機を援用した研究により脳の解明を目指す。

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