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2024.04.08
アスタキサンチンの研究を通して人工光合成の実現に寄与したい
理工学部 環境・応用化学科※ 4年 長田陸
光合成色素の一つ アスタキサンチンの研究に取り組む
人工光合成は、エネルギー問題や食料問題の解決、プラスチックの原料などの化学品の生成などで期待されている技術です。私が所属する生命環境学部橋本秀樹先生の研究室では、人工光合成によって水素やメタノールなどエネルギーの創出に取り組んでいます。植物は緑葉体によって光合成を行っており、人工光合成においても何を葉緑体にするか、その葉緑体に用いる光合成色素を何にするかによって、光合成の効率が大きく変わってきます。光合成色素の代表格といえば、クロロフィル、カロテノイド、フィコビリンが挙げられますが、エビ類の殻に含まれているアスタキサンチンもカロテノイドの一種。私はそのアスタキサンチンの研究を行っています。
生体への吸収率が高いアスタキサンチンを求めて
アスタキサンチンはエビ類のほか、鮭やカニ、イクラなどに多く含まれています。抗酸化作用が強く、疲労回復や老化防止に役立つといわれており、化粧品やサプリメントに多く用いられています。また、日本中央競馬会(JRA)では競走馬にアスタキサンチンの入ったエサを与えています。このように役立つアスタキサンチンですが、自然界で存在するものは生体への吸収率が高くありません。そこで私は吸収率が高い形に変えたものを安定的に供給することを目的に、アスタキサンチンの分析を行っています。吸収率の高いアスタキサンチンは256種あるため、どれが実用的でかつ大量に作り出せ、人工光合成の効率を上げるのかを特定することが私の研究の目標です。
先輩たちの支援を得てカロテノイドの知識を修得
子どもの頃、家族と一緒に視聴していた競馬中継でサラブレッドの美しさに感銘を受け、競走馬が好きになりました。所属先を決める研究室訪問で、橋本研究室の先輩から人工光合成の話とともに、アスタキサンチンは美しいサラブレッドのエサとしても活用されていることを聞き、この研究室に興味を持ち志望しました。熱い思いを持って入った橋本研究室ですが、当初は知識がまったくありません。そこでこれまでの研究論文を読むことからスタートしました。論文のほとんどは英語で書かれておりハードルが高かったのですが、先輩の修士論文を読んだり、先輩たちに指導を受けたりして何とか読めるようになり、自分が取り組む研究分野への理解が深まりました。
失敗から得た事実と教訓 報告・連絡・相談の重要性を実感
実験は自然界にあるアスタキサンチンを触媒などで吸収しやすい形にしたうえで、光を用いてその特性を測定するのですが、1回目と2回目で測定したデータが異なるという状態が続きました。科学の実験では、同じ方法・条件であれば同じ結果が出るという再現性が重要です。うまくいかない原因は自分の技術が足りないからと思い込んでいたのですが、橋本先生に相談し原因を追究した結果、一度吸収しやすい形に変えたアスタキサンチンが保管条件によって元の自然界に存在するアスタキサンチンに戻っていることが判明しました。この経験をきっかけに相談の重要性と、アスタキサンチンは条件によって異性体が元に戻るということが分かったことが大きな収穫だったと感じています。
めざすのはアスタキサンチンの大量生産 人工光合成のコストダウンに寄与
私の研究は吸収率の高いアスタキサンチンを特定することです。これができれば、そのアスタキサンチンは医薬品やサプリメント、化粧品用として大量生産されることになるでしょう。そしてこのアスタキサンチンが光合成の効率を上げるものであれば、大量生産によって人工光合成のコストを大幅に下げることができます。つまり人工光合成を実用化するために欠かせない部分の開発を担っていると自負しています。今後は大学院に進学し、さらに研究を深めて成果を出すことをめざしています。国内外の学会などで発表を行い、アスタキサンチンと人工光合成の可能性を世の中に発信していきたいと考えています。
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