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奥が深い数学の世界にようこそ

理学部大崎浩一 教授【後編】

「アキレスと亀」の話で数学を学ぼうと決意

 私は小学生のころ、算数は好きでも嫌いでもありませんでした。しかし、中学に入り数学に出会ったとき、とても面白いと感じるようになりました。それはなんともカッコよく数学を教える先生たちのおかげかもしれません。先生は「アキレスと亀」など、数学の面白さを感じさせる話をしてくれました。「アキレスと亀」とは、少し離れた前方をノロノロ歩く亀を足が速いアキレスが後ろから追いかけるのに決して追いつけないというパラドックス(逆説)です。明らかにおかしいと思われるでしょうが、次のように考えるとどうでしょう。アキレスが亀の出発点に着いたときには、亀は少し前に進んでいる。さらにアキレスがそこに着いたときにはまた亀はわずかでも前にいる。これを繰り返せば永遠にアキレスは亀に追いつけないことになりますよね。これは高校数学での「無限」とか「収束」などを学べばたちまち説明できるのですが、中学生の自分には結局よくわからず、でもこれを機に数学はキチンと学んで正しく使わなければならないんだなと思うようになりました。ちなみにmathematicsの語源は「学ぶべきもの」なんですよ。

理学部数学科の劣等生が数学の研究者の道へ

 高校生になっても数学が飛び抜けてできた訳でもないのに、理学部数学科出身の先生に憧れて理学部数学科に進むことを決めました。理学部数学科では、当たり前かもしれませんが、数学の理論を厳密に学びます。ガチの数学なわけです。私は大学ではいろんな方程式をどんどん華麗に解くなどしていくんだろうと勘違いしていたため、ガチの数学に圧倒され、授業もサボりがちになってとうとう留年してしまいました。それでも大学院博士課程までは行こうと決めていたので、数学が好きなのか嫌いなのかよくわからないまま、なんとか博士号を取らせてもらうことができました。大学院修了後は高校・大学の非常勤講師を経て、公募で国立宇部高専に数学教員として採用していただきました。高専は工業に関する知識や技能を身につける学校で、同僚たちは様々な研究をしていました。特に、心臓不整脈にも関連のある化学反応の研究で科学雑誌Scienceの表紙を飾る成果を挙げられた先生から強い影響を受け、この数理モデルに対する解析の論文を書きました。そういった業績が認められ本学に採用してもらえました。ここ数理科学科での教育のため、厳密な数学を一から勉強しなおしているうち数学が大好きになってきました。本当に学生たちのおかげです。先生も学生に負けじと日々勉強しているんですよ。

論理的に証明されていないことは「まだわかってないこと」だと考えよう

 私たちの世の中には真偽のわからないことであふれています。自分たちが知っていると思い込んでいることでも、その本質が説明できていないことが多々あります。工業製品の世界では、「過去にうまくいったから、この方法を使っている」という例も見られます。学生たちには「何でもすぐわかったと思わないように」と話しています。数学を学ぶ意義も、世の中の考えにとらわれず、物事を定義から論理的に考えるところにあると思います。数学ができる人の社会的ニーズが高まっているのは、そんなところに理由があるのかもしれません。

私の役割は現象と数学の橋渡しをすること

 1900年ごろ、数学はその存在を根底から覆されるような危機を迎えました。例えば「私は嘘つきである」と言ったとき、この「私」は「嘘つき」か「正直者」かという議論に似ています。この文が真であっても偽であっても「私」は嘘つきでも正直者でもあることになり矛盾が生じます。数学においても文章で概念を定義することがあるため、この議論は数学に限界があることを明らかにしました。しかし、「限界がある」ことがわかったことによって、さまざまな成果、例えばコンピュータの理論などが生まれ、数学は新たな一歩を踏み出したのです。そんな数学は自然現象と対話を繰り返しながら発展してきた歴史を持ちます。私自身も現象が新しくてとびきり楽しい数学の問題を与えてくれると考え、日々研究を行っています。現象とガチの数学との橋渡しをするのが私の役割なのかもしれません。こんな考えにちょっとでも共感してくれる人、そうでない人も、ぜひ一緒に数学を学びましょう!

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