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X線天文学で迫る「星の最後の大爆発」

理学部平賀純子 教授【前編】

超新星残骸の観測で突き止める「元素の起源」

 宇宙は可視光では穏やかに見えるものの、実はX線で輝く、つまり灼熱の天体がたくさん浮かぶ激しい世界です。光る球のように見える太陽も、X線で見るとフレアを激しく噴き出していることが分かります。銀河団の写真を見たことがありますか? 可視光では、漆黒の闇の中に光がぽつぽつとあるだけなのに、X線で見ると、闇の中にギラギラと、1億度近い高温で輝く物質が見えるのです。私はX線で宇宙を観測し、星の最後の大爆発「超新星残骸」について専門に研究しています。人間や地球を構成する様々な元素は、超新星爆発によって宇宙空間に供給されました。数百年たった今も膨張し続けている超新星残骸を観測し、元素の起源を突き止めたいと考えています。

人工衛星に搭載するX線撮像検出器を開発

 宇宙から降り注ぐX線は、地球の大気に吸収されるため、地表から観測することはできません。このため、X線天文学では、観測用の人工衛星を作ることが大きな仕事になります。研究室は現在、X線観測装置を搭載した人工衛星XRISMを開発する国際プロジェクトに参加しています。2021年度の打ち上げを目指すXRISMには、広い視野をもつX線撮像器とX線分光器が搭載され、プラズマの速さや、プラズマに含まれる元素を画期的な精度で測定することが期待されています。私の専門はX線撮像検出器の開発で、小型衛星の基礎実験も行っています。本格的な研究は院生になってから始まりますが、学生は4年生から研究室に配属され、宇宙の謎に迫る研究に励んでいます。

人類の根本的な問いに答えることこそ使命

 元素の起源を突き止めたいという人類の根本的な問いに答えるのが、一番のモチベーションです。突き止めた先に何が出てくるかは分からないけれど、予期しなかったことが役に立つ局面も必ずあると思います。私たちは宇宙で貴重なX線を1粒も失いたくないと、かなり省エネ、高感度、低ノイズの装置を開発しています。その技術を、X線の医療用検出器の小型化に生かせるかもしれません。検出器の感度が良ければ、放射光施設のような巨大装置を使わなくても、実験室で実験することが可能になるかもしれません。未知の分野を探求することが何をもたらすかは分からないけれど、真摯に探求することがすごく重要なのだろうと信じて研究を続けています。

宇宙への「最初の扉」開く研究の場に

 平賀研では、小さな半導体の検出器の仕組みから、衛星開発、果ては宇宙の謎の解明まで、いろいろなスケールで物理に携わる研究をやっています。自分で装置を作りたい人、天体の解析をしたい人など、様々な人の興味に応えることができ、漠然とした宇宙への興味の、最初の扉を開けるきっかけになる場所です。小さなことから大きなことまで、同じ法則で成り立つ物理学の魅力を、研究で感じてほしい。私は、勉強することの究極の目的は、世界平和のためだと思っています。物事の原理を学び、原理に基づいて自分で考える力を身につけることは、世の中で生きていく力につながります。一人ひとりがそういう力を身につけることで、人間の間の誤解も無くなっていくはずです。
 

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