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「保証人どう守るか」法検証が導く社会的使命

法学部渡邊力 教授【前編】

“情に厚い人”の窮地に寄り添う「求償権」

 保証人になったばかりに莫大な借金を背負い、連鎖倒産に追い込まれた――。そんな話を見聞きして、保証人になるのは危険だと思う人は多いでしょう。でも、個人的に保証人になるのは親戚や知人など断れない相手から頼まれた場合が多いんです。手術するのに必要だとか、「絶対に迷惑はかけない」と言われたら、“情に厚い人”ほど断るのは難しい。「危険だ」というだけではなく、保証人保護の視点に立った議論を進めていく必要があります。民法では、代わりに支払いをした保証人が、債務者本人に肩代わり分の支払いを求める「求償権」が認められています。私はドイツ民法を参考にしながら、この権利をより確実なものにできないか、研究を進めています。

民法の判例集でプレゼン 討論会で能力磨く

 ゼミでは民法のうち財産に関する法律を広く扱います。最高裁判例など重要判例集の中から興味のある判例を選び、4~5人からなるグループごとにプレゼンテーションをし、全員で議論する形式です。契約などのほか、不法行為の損害賠償も扱っており、認知症の高齢者が電車にひかれた事故の最高裁判例を取り上げ、老々介護や独居高齢者が社会問題になっている中で家族にどこまで責任が及ぶのかを熱く語った学生もいました。関西大法学部など、毎年行っている他大学との合同討論会も学生にとっていい刺激になっています。こうしたグループ発表やディスカッションを通じて、人に分かりやすく考えを伝える表現力や、グループワークに必要な能力などを鍛えています。

保証料、リスク分担・・・権利の枠組み再整備

 私が求償権を研究しているのは、好意で保証人になる個人のダメージを少しでも減らしたいという思いがあるからです。保証会社などと違い、個人は保証料(手数料)をとることをほとんどしません。また、土地や建物、車などの財産に抵当権をつけて求償権を担保しておくといったリスク分担は、法律を知らなければできません。法学者として、こうした知識を広く伝え、求償権を使いやすいものにしていきたいと考えています。現実には保証人が代わりに支払うようなときは債務者が破産しているケースが多いため、求償権は絵に描いた餅だという人がいます。そうであるならなおさら、権利の枠組みを再整備し、保護を強化する方策を研究していくことに、社会的な意義があると思っています。

実社会で生かしてほしい「リーガルマインド」

 法を学ぶうえで大切なのは、条文を覚えること以上に、法の中身や制度、ある物事が法律的にはどう規律されるのかという仕組みを理解することです。そのうえで、どこに問題があるか、問題があるとしたらどう改善していけば、より良い法律、より良い社会になるのかを自分の頭で考えられるようになってほしいと考えています。実社会に出れば、様々なトラブルに直面します。それらが常に法律と関わるわけではなくても、トラブルを解決に導くために幾つかの対策を提示し、比較検討しながらより良い、みんなが納得できる方策を選んでいけるでしょう。そうしたリーガルマインド(法的思考能力)を、法学部で身につけてもらいたいと思っています。

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