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私が科学の研究者になった理由

生命環境学部橋本秀樹 教授【後編】

ものづくりが好きで不思議なことに興味を持った少年時代

 私は子どもの頃から理科に興味があり、小学生のときの卒業文集に「将来は世界をわたり歩く研究者になりたい」と書いたほどでした。この頃、愛読していたのは学研が発行していた雑誌「科学と学習」。毎月、簡単な理科実験ができる付録があり、それを用いて実験をしていました。もう少し大きくなると雑誌「子供の科学」(誠文堂新光社)を買い、そこに載っていた記事を見ながらラジオ制作などの電子工作を楽しんでいました。また、星を見るのも好きで、天体望遠鏡を買ってもらい、天文写真を専門雑誌「天文ガイド」に投稿したこともあります。理科好きの子どもとして育つうちに自然と、不思議なことに出会うと「なんでだろう?」と考える習慣が身についたのだと思います。

関西学院大学の旧・理学部で研究テーマとキリスト教に出会う

 人体や脳の不思議さに興味を持ち、医学部をめざしたものの不合格。関西学院大学の旧・理学部に入学しました。化学分野の研究をすれば生物学を学べると思い、入った研究室で光合成の研究に出会いました。大学卒業後はそのまま大学院に進み、博士課程で光合成におけるカロテノイド色素の研究に取り組み、光合成で重要なカロテノイドの光励起状態の物性を解明。これは当時世界初のテーマで、高く評価されました。また、大学在学中にキリスト教に改宗しました。当時の私は青年期にあって「自分の人生はこのままでいいのか」「これからどうやって学んでいったらいいのか」と悩んでいましたが、キリスト教に出会ったことで「世界の人々のために、研究成果を残そう」という気持ちが固まり、研究者としての道を歩むことにしました。

他のエネルギーシステムの弱点を補える人工光合成

 火力発電は発電時に二酸化炭素を排出するだけでなく、日用品や医薬品の原料の一つである貴重な石油資源を使ってしまいます。再生可能エネルギーとして期待を集める太陽光・風力発電は、天候に左右されるため、安定的に電力を確保することが困難です。原子力発電は、核廃棄物の処理方法に加え、東日本大震災によって事故が起きたときにどうするのかという問題を私たちに突き付けました。安定的かつ安全に、そして資源を保護しながら、私たちが持続可能な社会をつくっていくにはどうしたらよいか。そのヒントを持っているのが植物の光合成なのです。植物が普通にやっている光合成によるエネルギー利用を人工的に再現することができれば、環境問題もエネルギー問題も解決できると思っています。

サステナブル社会が求められる時代に人工光合成が貢献

 上記のことを考えると、人工光合成の研究の意義に時代が追いついてきたと感じています。私たちの研究はこれからサステナブルな社会がつくられるにあたり、大きく貢献できるものだと自負しています。私の座右の銘は「Where there is a will , there is a way(意志あるところに道はある)」。高校生や受験生の皆さんには、教科書の勉強だけに満足せず、いろいろなことに興味を持って欲しい。本をたくさん読んで、感受性と創造性を豊かにすることをお勧めします。もし1%でも可能性があればチャレンジしてみる。私自身も40代になってから空手を始めて師範代になりましたし、海の不思議さを知りたくてスキューバ・ダイビングの資格や1級小型船舶免許も取りました。自分の殻に閉じこもらず、いろいろなことを体験してください。

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