Research 研究

教師は「最前線のスクールカウンセラー」

教育学部藤井恭子 教授【前編】

「ヤマアラシのジレンマ」とともに他者とどう生きるか

 孤独を否定的に捉えがちな現代、高校生の皆さんの中にも友人関係に悩んでいる人は多いのではないでしょうか。友人からの評価を気にして距離感がつかめなくなったり、ささいな言葉に自分を全否定されたように感じたり。自分だけがおかしいと思い詰めているかもしれません。近づきたいけれども近づきすぎたくない、離れたいけれども離れすぎたくはないという、他者との適度な心理的距離を模索して生じる「ヤマアラシのジレンマ」が、私の研究テーマです。ヤマアラシのごとく、お互いに棘をもつことを認め合い、多様な価値観を持つ他者といかに共生していくか――こうした営みの中で、自分のアイデンティティーを構築していくことが大切なのだと思います。

ゼミが「人生の礎となる場所」になって欲しい

 ゼミでは、一人ひとりに伴走しながら、ほぼ2年をかけてテーマを探究させます。ゼミ生たちに常に言うのは、「これからを生きていく上で何らかの礎になるような研究をしてほしい」ということ。興味のあることや、教育者としての強みや価値観の形成につながることはもちろんですが、何よりも自分が抱えてきた問題を捉え直す機会にしてくれればと思っています。青年期ですから、立ち止まったり迷ったりは当たり前。どんな時も全ての人に居場所となるようなゼミでありたいと思っています。お互いの研究について誠実に議論を積み重ねることを通して、自分自身がこれまで身につけていた価値観を捉えなおしてほしい。そうしてできた学生時代の仲間は、「人生の宝物」になることでしょう。

ワークショップで子どもと交流、体感する使命

 教員になるには、ただ勉強の成績がいいだけではダメです。自らがみずみずしい好奇心を持ち、他者と広くつながり、協働して何かを成し遂げる力が必要です。教育学部で教える教員の使命として、理論と実践を往還させることを常に意識しています。学生が主体的にプロジェクトを作り上げ、地域の子どもたちを招いてワークショップを開くリプラ(西宮聖和キャンパス・ラーニングコモンズ)での「Academic Day」も、その一環です。実習の場面とは違う子どもに出会うこと、正課科目の枠組みにとらわれず取り組むことは、学生を大きく成長させます。主体的にテーマを見つけ、デザインを組み、人に伝え、多様性を認め合うという力は、教員に限らず、一般企業においてもとても大事な力になると考えています。

心理学を身につけた教師、一人でも多く学窓に

 心理学的素養を身につけた教師を一人でも多く、子どもたちの元に送り出したいと思っています。中学校のスクールカウンセラーをしていた頃、相談室にやってくる子どもの中には、成長や発達を妨げてしまうほどに問題が大きくなりすぎてしまった子どももいました。そんな時、もっと早くサインに気付いてあげられなかったのだろうか…、相談室で待っているカウンセラーには限界がある、日々の教室で教師にしかできない援助活動があると痛感しました。教え子たちが教師になり、私ができなかったことをしてくれたらと願っています。 一方で、教師にならない人にとっても、人の学びや育ちを支える力は、職業・家庭生活を営んでいくうえで、欠かせないものになるでしょう。

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