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研究に没頭するうち気がつけば大学教員に
商学部土方嘉徳 教授【後編】
父親の「戦略」にはまってプログラミングの楽しさを知る
私がコンピューターに触れたのは小学5年生のときです。当時は家庭用ゲーム機の全盛期で、友だちはみんなゲーム機を持っていたのに全然買ってもらえない。その代わりに父はコンピューターを買ってくれました。しかしパソコン本体のみでゲームソフトは1本も買ってもらえません。ゲームがしたくてうずうずしていた私は、仕方がなくパソコン雑誌に掲載されたゲームのプログラムを、パソコンに打ち込みはじめました。そうやっているうちに、プログラミングが楽しくなってきたのです。父は教育的効果を狙ってパソコン本体のみを買ったのでしょう。幼い私は見事に父の「戦略」にはまりました。もしあのとき、父がゲームソフトも買ってくれていたら、今の私はなかったかもしれません。研究のしやすさを求めて企業から再び大学院へ
大学はコンピューターについて深く学ぶために情報系の学部に入学しました。研究室に配属されたときはちょうどインターネット元年で、Webの研究をしようと決意。Web上の情報を使って人工知能をつくる研究に取り組みました。大学院修士課程修了後に日本IBMに入社。研究所に配属され、Webブラウザでの操作履歴から、ユーザーの様々な状態を推定する技術を開発しました。この技術は、金融・保険セクターや人事研修部門などにおける人的コストの削減に貢献しました。しかし、ユーザーの興味や嗜好とは何か、パーソナライゼーションはユーザーに行動変容をもたらすのかなど、よりユーザーの深層心理に近づきたいと思うようになり、会社を退職。研究を深めて博士号を取ろうと思い、母校大阪大学の博士課程に進学しました。当時は研究をしたいだけで、大学教員になりたいとは思っていませんでした。指導方針は「学生の“好き”を応援したい」
博士課程修了後、なぜか大学から声がかかり、大学教員として大阪大学に残ることになりました。教員を引き受けた理由は、「これで今後も研究がしやすい環境にいられる」というものでしたが、学生と一緒に研究をしているうちに、「自分は学生が成長していく姿を見るのが好きなんだ」ということに気がつきました。当時の研究室には、「自分で考えたテーマをやりたい」という思いの強い学生が多かったですね。アイドルやアニメが好きなソーシャルメディアのヘビーユーザーが多く、彼らはリアルなユーザー視点で研究に取り組んでいきました。いきいきと研究に打ち込む姿を見て、「学生の“好き”を応援したい」と思うようになりました。そしてこれは今も私の基本的な指導方針の一つになっています。親世代の価値観にとらわれず新しいものに向き合おう
自分がこれまで研究者として育ち、教育者として指導をしてきたのは理系の研究室でしたが、関西学院大学では商学部の一員です。ただ、情報学の研究者は新しいもの好きで、「新しい仕掛け」を誰よりも早くやってみたい。Webは情報と情報、人と人とをつなぎ合わせる接着剤のようなもの。そこから先進企業やeコマースなどが次々と生まれています。そのような新しい動きを研究対象とする商学に興味を持っています。例えば皆さんの親世代が若かったころにはYouTuberという職業は想像すらされませんでしたが、今はそのYouTuberをプロデュースする人がいるほどです。これからも今までにない仕事やビジネスが生まれてきます。親世代の価値観にとらわれず、新しいものに向き合うようになって欲しいと思います。