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「アスリートの骨強度」にデータ解析で迫る

人間福祉学部河鰭一彦 教授【前編】

柔道、水泳・・・指数の違いを生む「衝撃負荷」

 私の研究分野は、人間の身体運動の科学的な解析です。特に骨の強さ(骨強度)と身体運動の関係です。運動をするとき身体にかかる負荷には、衝撃負荷と活動負荷とがあります。例えば水泳は、活動負荷が高い反面、水に浮いているため衝撃負荷は低いのです。骨強度を高めるのは衝撃負荷なので、水泳選手は筋骨隆々であっても、骨強度は実はそんなに高くないんです。高くなるのはラグビーや柔道など、「痛い思い」をする選手の方。統計的データとして使えるよう、骨強度指数も作りました。最近では、裸足と走る速度の関係性を調べています。速く走れると注目されている、素足に近いシューズについて、科学的に証明できるデータをとっているところです。

頭頸部リスクを軽減する「受け身」徹底検証

 スポーツ科学を学ぶ上で大事なのは、現場での実践を研究に落とし込んでいくことです。ゼミ生にはいつも「まず、やってみよう」と言っています。その一つとして、ここ10年近く、柔道の受け身を研究してきました。死亡や後遺障害のリスクを減らすには、投げられた際、いかに頭とくびの揺れを少なくするかが重要です。日本のトップ選手が投げ技に対しどんな受け身をとっているのかを調べたところ、教育現場では後ろ受け身をとるよう指導される大外刈りを含め、全ての投げ技に横受け身をとっていることが分かりました。さらに動作解析を進めた結果、正しい横受け身をとれば、障害を引き起こすほどの頭頸部の揺れは起きないという科学的データを得ることができました。

教育現場での「屈曲力チェック」を提言へ

 受け身の研究を始めたのは、中学の授業で武道が必修化された際、重篤な事故が多い柔道は危険だという声が上がったためです。柔道を続けてきた者として、本当に危険なのか、安全に取り組む策はないのかと考え、研究を進めることにしました。受け身と頭頸部の揺れの相関性を調べる中で、首を曲げる筋力(屈曲力)が一定程度ないと安全性の確保が難しいことを突き止め、屈曲力がどれだけ必要かのデータを出すことができました。中学2年を対象に男女の屈曲力平均を調べ、現場で屈曲力を調べる手法も考案することができました。年内に日本武道学会と日本体育学会で発表するとともに、現場の先生方に、授業前に生徒の屈曲力チェックを必ず行うよう提言しようと思っています。

「心技体」正しく把握した指導者になって欲しい

 競技をやってきた学生ほど、勝ち負けを心の問題にする傾向があります。指導者も、「やる気がないから負けるんだ」というようなことをすぐに言う。でも、スポーツの3要素と言われる「心技体」のうち、現場で大事なのは、実は技術と体力です。体力は、正しい理解と実践で、強くすることができます。人間科学科では保健体育の教員免許を取ることができます。心技体を正しく理解し、安全にスポーツを楽しみ、指導できる人になってほしいと思います。私が学生によく言うのは、まず自分自身が強くなれ、うまくなれ。そして余力で、他者を助けられる人間になってほしいと願っています。この言葉は関西学院大学の「Mastery for service(奉仕のための練達)」に繋がると思っています。

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