Research 研究

バングラデシュでの体験が私の人生の方向性を決めた

総合政策学部西野桂子 教授【前編】

実践を重視した研究を推進。3年生はフィリピンで現地調査

 私のゼミでは国際協力について研究していますが、私の専門分野は、「途上国の課題を事業で解決するソーシャルビジネス」「ジェンダー」「ODA(政府開発援助)の評価」の3つと言えます。これには国連児童基金(UNICEF)バングラデシュ事務所・ニューヨーク本部勤務と開発コンサルタントの経験が大きく影響しています。ゼミでは、文献調査に加え、「実践」を重視しています。3年生の9月にフィリピンの山奥にあるヌエヴァ・ヴィスカヤ州で2週間にわたるフィールドワークを行い、国際協力の基礎を学んでもらいます。4年生の春学期には、グループごとに国や地域を選択し、その地域の課題を解決するビジネスモデルを立案します。最終的には、国際協力を中心とする研究テーマを各自選択し、卒業論文を執筆します。

開発途上国が自立していくことが支援するうえで重要

 皆さんは開発途上国の開発支援とはどのようなことだと思いますか?伝染病の蔓延といった非常事態の際にはとても重要な支援ですが、「資金や物資を提供すること」と考える人も多いかと思います。しかし、お金やモノは紛争直後や、自然災害、伝染病の蔓延といった非常事態の際にはとても重要な支援ですが、先進国と開発途上国との格差解消に直接繋がるわけではありません。大切なのは現地の人々の自立を促し、先進国と共生できる社会にすることです。それにはもちろん世界が平和であることが前提です。日本政府のODA(政府開発援助)は、アジア諸国への戦後賠償から始まりました。現在はスマートドナーとなるべく、「量から質」への転換が図られています。一方で、実際に効果がある開発支援が行われているかどうかを検証することも重要だと言えます。
 

教育を受けられないと貧困からの脱出が困難に

 開発途上国のジェンダーという点では、女性が教育を受ける重要性をバングラデシュで痛感しました。1981年のバングラデシュの識字率は男性40%、女性18%。特に農村の識字率は低く、10%以下でした。10人に9人は自分の名前すら書けなかったのです。教育を受けられないということは、将来の可能性の選択肢が狭くなるということです。より良い仕事を得るためには「基礎学力」が必要です。貧困が原因で教育を受けられないと、働く人を選ばない低賃金の仕事に就くしかなく、貧困から脱することはできません。ちなみにバングラデシュ政府は1990年代に女子教育を改革。初等教育を義務化したことで、女子の初等教育就学率は1981年の55%から2010年には91%を超えるまでになりました。

“貧しくても幸せそうな生活”の裏には大きな問題がある

 途上国でのフィールドワークを体験した学生の多くが感じることは「貧しくても家族が仲良く生活し、幸せそうだった」というものです。確かに現地の人の笑顔に触れる機会は多くあります。しかし、紛争や飢餓など目に見える状態だけでなく、多くの人々は水やジェンダーなど表面には出てこない問題、あるいはちょっとした変化で貧困に陥る可能性に直面しているのです。私のゼミ生が3年生に行うフィールドワークでは、少数民族が多く住む農村や、農民を支援するNPO(非営利団体)、村の小学校や保健所などを訪問し、農村の生活を体験することにより、どういう国際協力が望ましいのか、途上国の課題は何か、それを解決するにはどうしたらよいかを考える機会にしてもらいたいと思っています。

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